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2015年10月25日

Bloodborne -騎士装束の狩人と時計塔-

  後編。今回はキーアートと本編を絡めて考察する。椅子に掛ける騎士装束の狩人は何者なのか。時計塔の役割とは。それは本編から見えてくるかもしれない。





◇時計塔
◇騎士装束の狩人
◇裏切り者
◇ゲールマンの弟子
◇主人公の呪い
◇後書き





◇時計塔


DLCのキーアート。大時計の前で優雅に椅子に掛ける狩人の姿が描かれている。


  パッケージにも使われているこの画像。まずは大時計のほうから見ていこう。

  大時計には数字の代わりとなる大小12個ずつの穴が空いており、その穴からは複雑な模様が覗いている。二つの針はまるで剣の刀身のようにも見え力強く時を刻みそうだ。しかしその針は二本とも長さが同じで長針と短針の区別が付かず、また針が指し示す時間は4時50分か10時20分頃であるが、よく見ると実際の時計の針とはズレがあり現実的な時間を指していないことがわかる。一見して気付きにくい不調和が見る者の不安を煽るようだが、そもそもこの時計の用途は時刻を計るためのものではないのかもしれない。考えられる用途は何があるだろう。

  文字盤の縁にはいくつものカレル文字が刻まれており、中には本編に登場しなかった文字もある。3時の方向から「輝き」「新規文字」「狩り」「獣」「新規文字」「不明」「湖」「新規文字」「オドンの蠢き」、そして9時を回った所で「姿なきオドン」へと続く。それ以降は暗くて見えないが明るさやコントラストを調整してみるとかすかに浮かび上がる文字があった。

画像を上げた際にやや潰れてしまったが見えるだろうか。

  11時~2時には「不明」「瞳」「不明」「拝領」と並んでいる。11時は針に隠れて、また12時はどんなに調整しても存在すら分からないほど暗くて見えない。だが各カレル文字はセパレータで仕切られており、文字とドットが等間隔に並んでいる。12時の前後にもセパレータが確認できるのでここにも文字が隠れていることは間違いない。文字盤に刻まれたカレル文字は全部で14種だ。

  またこのセパレータは間隔が一定ではない。仕切られた文字が受け持つ範囲はそれぞれ異なり、一番小さいものは「輝き」や「狩り」、「湖」はその倍近く、「姿なきオドン」はさらにその3倍ほど、「拝領」はそのオドンをも上回る領域を持つ。カレル文字にも序列があるのかは定かでないがオドンは上位者の一端であり、「拝領」は上位者の力をもらうこと、つまりヤーナムの血の医療の発端だ。それらの文字の意味を考慮すれば文字の範囲に差があるのもおかしなことではないのかもしれない。

  カレル文字の並びにも注目したい。恐らくだが0~12時のカレル文字の流れはヤーナムの歴史と行く末、あるいは医療教会の目的とそれを果たすための儀式手順を表しているのではないだろうか。


不明→拝領→輝き→新文字→狩り→獣→新文字→不明→湖→新文字→オドンの蠢き→姿なきオドン→不明→瞳→不明


  始めに何かが在り、ヤーナムの地下に拡がる遺跡から聖体を、そして血を拝領した。その禁断の血を持ち去ったビルゲンワースの裏切り者を断罪するため処刑隊が発足し失文字の一つである輝きがあてがわれる。触手のような新文字は上位者(月の魔物)だろうか、それにより生まれた獣を狩り、狩人は血に呑まれ獣となる。獣に類すると思わせる次の新文字は獣の一つ先の姿だろうか。6時の文字は椅子に隠れて見えない。湖は眠りを表し、継承に似た文字に繋がる。そして誰もその姿を見ることが出来ない上位中の上位であるオドンが動き出す。11時前の何かを経たのち、ついに瞳を手に入れ12時に繋がる。

  このカレル文字が儀式手順を表すのだとすれば、時計の針はその進行度を表しそうだ。一つは4時の「獣」を過ぎたあたりでこれはまさしく獣の病が蔓延しているヤーナムの現状だろう。もう一つの10時頃を指す針は文字こそ見えないもののその位置からして、かつてあと少しのところで儀式が失敗したということだろうか。それは獣の病蔓延の末に砂に埋もれたローランだろうか。イズの地は宇宙に触れて人を超えたが、もしかしたらイズすらも儀式の半ばにあるのかもしれない。エーブリエタースは一見して無数の瞳を持つようだが、よく見るとそれは瞳とは言い難い不完全なものだ。


  この大時計と同じものが本編では二つ登場している。一つは旧市街、もう一つは聖堂街だ。

旧市街、デュラのいた時計塔。

聖堂街の時計塔。この時計の真下に大聖堂がある。

  複雑な構造の文字盤はキーアートの大時計そのものだ。違いがあるとすれば僅かに左に傾いた文字盤の穴と、縁の文字がカレル文字ではなく、また等間隔に並んでいるというところか。その文字はローマ数字でもないようだ。

  塔のデザインは違うもののなぜそれらに同じ時計を用いたのか。医療教会はこの大時計に執着しているようだ。旧市街の時計塔を模して聖堂街にも建造したと考えられるが、旧市街を焼き棄てておきながら時計塔を再建したのはやはり儀式に必要だからだろうか。

「赤い月は近く、この街は獣ばかりだ。きりがない。もう何もかも手遅れ、すべてを焼くしかないのか」

  旧市街に落ちているメモはここが焼き払われる前のもの、つまり旧市街でもかつて儀式が行われ赤い月が呼び出されたことを示している。時計塔の10時の針はその旧市街の儀式を指しているのかもしれない。それにより獣の病が蔓延し、街が焼き払われ、そして棄てられた。その儀式の主は月の魔物を呼び出したローレンスとゲールマンであると考えられる。ビルゲンワースのメモ「赤い月が近付くとき、人の境は曖昧となり、偉大なる上位者が現れる。そして我ら赤子を抱かん」と、捨てられた古工房にあった「3本目のへその緒」がその理由だ。ローレンスたちは一度赤子を手にしている。メンシス学派はそれをなぞる様に儀式を進めているのだ。

  旧市街の儀式はずっと昔のことだ。DLCが古い狩人たちの物語ならば旧市街のことも語られるだろう。新エリアの狩人の悪夢からは時計塔も見え、また中を探索することもできる。時計塔には儀式に関する重要なものが隠されているはずだ。


  また、この時計の文字盤と似た意匠を聖堂街の各地で見ることが出来る。

オドン教会と大聖堂の床。時計と同じように12個の円が並んでいる。

オドン教会のエレベータ。こちらは時計塔の文字盤により近く、大小12個ずつの円が並んでいる。


  聖堂街には普通の時計もある。それでいてすぐ近くに時計塔を再建した。やはりこれは時刻を知るためのものではないのだろうか。

人形のブローチ。中石を囲う脇石の数は12個だ。

こちらは大聖堂から階段を降りた先の広場。

  こじつけの感は否めないが、中央の像を囲むように建てられている墓碑の数も12個だ。円形に12個のものが並ぶとやはり時計を思わせる。ヤハグルやメンシスの悪夢にも円を12分割したデザインのものがあり、またビルゲンワースにいる瞳の苗床(虫人のような敵)の手足の総数や悪夢に現れる蜘蛛の脚の本数、ヤーナムの影の総人数も12なのだがこのあたりは考えすぎかもしれない。そもそもヤーナムの影はトゥメルの人間だろう。

  しかしやはり医療教会は時計に執着しているように思えてならない。そういえば聖堂街上層の時計塔、その先の地下深くにある嘆きの祭壇は時間を操る。女王の肉片を持って祭壇にあるロマに似た死骸を調べると肉片の時間が巻き戻り女王が甦るのだ。貪欲な医療教会はこの力も欲し、それが時計塔に表れているのかもしれない。見捨てられた上位者エーブリエタースもこの力に頼ってイズの地に還ろうとしているのか、あるいはイズそのものを人の時代に還したいと願い祈っているのかもしれない。





◇騎士装束の狩人


キーアートは実は二種類あり、右の絵は狩人のスカーフと床が血で汚れている。

  血がテーマの一つであるBloodborneにおいて血の汚れを気にするなどおかしなことだが、キーアートを二つ用意するのには何か意図があるのだろうか。

  今回の狩人はいつもの狩装束ではなく騎士装束を着ており、ヤーナム様式の狩人帽子を被っている。膝に乗せられた剣は刀身がやや反っており刀やサーベルに近い。柄や鞘の意匠はやはりカインハーストの様式だろうか、千景やエヴェリンのように非常に凝ったデザインで、柄から伸びた護拳は変形機構のようにも見える。構えそのものが変わる千景とは違い変形するのかもしれない。

  DLCではカインハーストが大きく関わってくるのだろうか。血に汚れながら優雅に掛ける姿は血に酔っているという表現がピタリと当てはまる。カインハーストの穢れた血族そのものと言っていい。思えばDLCトレーラーの豪奢なBGMはカインハーストの貴族によく似合う。

  よく見ると所々騎士装束とは異なる部分がある。まずカインハーストの血族を貴族たらしめる気取ったスカーフとブローチだ。本編の騎士装束のスカーフは細かな刺繍が施されており、真っ赤なブローチがポイントとなっているが、キーアートの装束は無垢のスカーフに真っ白なブローチが乗っている。上着のボタンやチェーンもなく、本編の騎士装束と比べるとやや控えめな印象だ。また二つのボタンが特徴の手袋は本編に登場しておらず、大きくスリットの入ったブーツは「教会の黒脚衣」に似てはいるもののよく見ると膝のあたりが違う。帽子についても違いは羽根飾りだけでなく大きな襟も付いており、肩掛けは二重になっている。

既存の装備から近いものをセレクト。帽子は肩掛けよりも羽を重視するならヘンリックのものでもいいだろう。DLCまでこの装備で遊ぶのも楽しそうだ。

  白いブローチはまだ血に染まっていないことの象徴なのか、この狩人は発展途上とも言える騎士装束とヤーナム様式の装束が混じり合った装いをしている。このことからこの狩人はビルゲンワースの裏切り者と考えられそうだ。





◇裏切り者


  裏切り者はかつてビルゲンワースから禁断の血をカインハーストに持ち去り、穢れた血族の始祖となった。ヤーナムとカインハーストの二国を跨るその経緯が、騎士装束とヤーナムの狩人装束の両方を着ている理由と考えられないだろうか。そしてその事件は古い時代のものであり、DLCの世界にそぐわないということはない。この裏切り者についての情報はアルフレートの話にしかない。ビルゲンワースを去るローレンスに対してウィレームが言い放った「君も裏切るのだろう?」というセリフはゲールマンかこの裏切り者の関連が考えられるが、肝心の人物像を知るヒントにはならない。

  アルフレートの話と医療教会の歴史を織り交ぜて裏切り者の来歴を洗ってみよう。確証のない部分は括弧で囲うことにする。



  かつてのビルゲンワースには学長ウィレーム、ゲールマン、ローレンス、裏切り者らが所属していて、イズの地から聖体を拝領し、(トゥメルからは禁断の血を持ち去った)。のちにゲールマン、ローレンス、(裏切り者)がビルゲンワースを離れ月の魔物を呼び出すことに成功するが、ゲールマンは月の魔物によって夢に囚われてしまう。ローレンスは(夢に囚われたゲールマンを救うべく{※ゲールマンの寝言「ローレンス…ひどく遅いじゃあないか…」}、上位者をおびき出すためまき餌となる赤子を得ようと)再びトゥメル遺跡に潜った。しかしウィレームの警句も虚しくローレンスは獣の病に感染し、死した後その頭蓋は大聖堂に祀られることとなる。

  一方、裏切り者は(月の魔物から得た)禁断の血を用いて赤子を得ようとする。しかしその方法は「血の穢れ」が必要であり、穢れは狩人の死血からしか得られない。(狩人が狩人を狩るという同士討ちに等しい手法は、上位者との邂逅を望む医療教会においても好ましくなく)、その血を禁忌とした。裏切り者は理解を得られないビルゲンワースと決別、カインハーストに禁断の血を持ち去り、穢れた血族の始祖となる。そして女王を戴き血の穢れを捧げて血の赤子を求めた。



  裏切り者のあらましはこんなところだろうか。裏切り者は禁断の血を持ち去り赤子を得ようとした。それはビルゲンワースを出し抜き、自身こそが宇宙に触れようという野心からだろうか。裏切り者という烙印はその人物像を後押しする。だがこうは考えられないだろうか。裏切り者はビルゲンワースに学び、学友のゲールマンは夢に囚われた。裏切り者はローレンスとは違う方法で、ゲールマンを夢から救い出そうとしていたのではないか。

  禁断の血によって上位者をおびき出すための赤子を抱き、再び月の魔物と邂逅してゲールマンを捕える悪夢を狩る。だがそれには狩人の死血が必要であり、狩人を擁する医療教会を敵に回すことになる。それが裏切りに至った経緯であり、後の血族の悲願となったのではないか。しかしそれは処刑隊によって阻まれ、ゲールマンは永く夢に囚われることとなった。





◇ゲールマンの弟子


  本編には裏切り者の他に名前も知られていない古い時代の人物がもう一人いる。それがゲールマンの弟子だ。裏切り者同様にこの弟子についての情報はほとんどないのだが、その少ない情報と主人公を重ねると見えてくるものがある。

  二人に着目した理由はいくつかある。まず狩人の夢の中で人形が時おり祈りを捧げる墓だ。これは現実世界の同じ墓に「古い狩人の遺骨」があったことと、そのテキストからゲールマンの弟子の墓であると考えられる。

ゲールマンの弟子の遺骨。加速の業を使うにはこの遺骨が必要になる。

  そしてこの弟子の墓は本編で介錯エンドを迎えて建てられる主人公の墓とデザインが全く同じなのだ。

上が古い狩人の墓。下が主人公の墓。

  作中に無数の墓がありそのデザインも多種多様な中で、個人がほぼ特定されているこの二つの墓だけが固有で同一のデザインなのだ。関連がないとは考えにくい。さらに人形は主人公について懐かしい、やはり狩人とは古い遺志を継ぐものと言っている。この繋がりは二人が同一人物か、あるいは何らかの理由で弟子が主人公として転生したことを暗に示しているのではないだろうか。


  ここでもう一つ仮定の話をする。予想に予想を重ねた薄氷のように危うい考察なので話半分に聞くくらいがちょうどいいかもしれない。

弟子の墓とキーアートの椅子。

  墓のデザインと椅子の上部、拡大したなかでもさらに先端の部分が似ている。上位者を意識したものなのか、それはどことなく羽を思わせるデザインで、その上には両方とも持ち手のような半円がある。これを切り口として、ゲールマンの弟子とビルゲンワースの裏切り者の共通点を見ていく。


  裏切り者の行動がゲールマンを夢から救うためだとすれば、ゲールマンの弟子が同じ行動を取ってもおかしくはない。弟子は師を慕うものだ。二人が協力してゲールマンを救おうとしたと考えてもいいが、前述の裏切り者のあらましは「裏切り者」をそのまま「弟子」に差し替えても特に矛盾はないはずだ。加えてその二人は名前が知られていない。ここでビルゲンワースを裏切ったのはゲールマンの弟子だった可能性が出てくる。

  ゲールマンの弟子ら初期の狩人が使う加速の業を、カインの流血鴉(大聖堂にいた千景の狩人)も操る。流血鴉は装備や感覚麻痺の霧に見られるようにカインハーストの色が非常に強い。現代の狩人が加速の業を使うには捨てられた古工房にある「古い狩人の遺骨」が必要なのだが、カインハーストでもそれは脈々と受け継がれていたのだろうか。それはゲールマンの弟子が禁断の血と一緒に加速の業をカインハーストに持ち込んだのが始まりなのかもしれない。流血鴉にも弟子とカインハーストとの関連が見られる。


  裏切り者がゲールマンの弟子であり、主人公もまた転生した弟子でもあるなら、この仮説においては裏切り者も自ずと主人公となる。以下に仮説を補ういくつかの傍証を記す。

  ミコラーシュの「おお、素晴らしい!夢の中でも狩人とは!」という小馬鹿にしたようなセリフからは、まるで主人公を知っていたかのような印象を受ける。裏切り者はかつてビルゲンワースの学び舎にいた。月の魔物との邂逅により勉学と研究を捨てて狩人となったのなら、時を経て目の前に現れた主人公が今もなお諦め悪く狩人であることを見れば、ミコラーシュが嗤うのは無理もないことなのかもしれない。

  また、主人公を懐かしむ人形の衣装のテキストには持ち主の愛情が感じられるとある。捨てられた古工房に動かない人形やスペアの服があったことから、その持ち主とは当然古い時代の狩人だろう。人形の衣装は騎士装束と似てスカーフとブローチを着けており、刺繍はカインハーストの様式にも劣らぬほど繊細だ。
  ただ、人形の持ち主がゲールマンであるかは疑わしい。ゲールマンの「残っているものは、すべて自由に使うとよい。…君さえよければ、あの人形もね…」というセリフはどこか、デモンズソウルの黒衣の火防女に対する要人の嫌悪と似たものを感じさせる。思えば要人は楔の神殿に、ゲールマンは狩人の夢に囚われている。火防女に代わる者が人形ならそれは当然のことかもしれない。

  続いてカインハーストの招待状だ。ヨセフカの診療所に裏口から入ると見つかる招待状には何故か主人公の名前が記されていた。これも両者の関連を示している。それはカインハーストへ辿り着くのに必要なものだ。ゲールマンの弟子が主人公であり月の魔物を狩ることで師を救おうとしているなら、赤子が近いカインハーストに向かうべく事前に招待状を用意するのは当然のことだろう。アルフレートには難しくとも、裏切り者ならそれは容易なことだ。しかしそこには疑問が残る。この招待状はいつ用意したものなのだろうか。

オープニングで主人公が寝ていた寝台に置かれていた。アルフレートに渡したものとは違い名前が書かれている。


  その答えを診療所の「自筆の走り書き」の矛盾と併せて解いていく。内容は「青ざめた血を求めよ。狩りを全うするために」。これは主人公が記憶を失う前に書いたものだが、しかし主人公は本来、病を治すためにヤーナムを訪れたはずだ。青ざめた血は治療の目的であり、狩りの全うのためではない。順序が逆なのではないか。青ざめた血を得る過程で狩りをするという流れが適切のはずだ。そもそも本来ヤーナムを知らぬはずの異邦の主人公がなぜヤーナムの狩りの存在を知っているのか。

  どういうわけか主人公はヨセフカの診療所で輸血をする前から、それどころかヤーナムを訪れる前から青ざめた血=月の魔物を狩ることが目的だったのだ。何らかの理由で主人公は月の魔物を既に知っており、これから自身に起こる出来事も予見している節を感じさせる。わざわざ診療所に来て輸血を受けたのは青ざめた血の情報収集などではなく、ヤーナムが異邦の者にはひどく閉鎖的な街で血を受け入れなければ何も明かさず、その門を開かないからだろう。そしてその血は夢の狩人になるために必要なものでもある。そして主人公は輸血によって記憶が混濁(※IGN動画の解説)するのを見越してあらかじめメモを残した。メモの文体が命令形なのはそのためだろう。

  初めから月の魔物が目的なら主人公はやはりゲールマンの弟子や裏切り者である可能性がある。青ざめた血との邂逅はゲールマンを夢から解放する唯一の手段なのだ。では主人公が弟子や裏切り者であるなら、なぜヤーナムの外からやってきたのか。それはゲールマンの介錯によるものと考えられる。

  どのような理由で、それがゲールマンと示し合わせてのことかは定かでないが、弟子はそうすることで一度夢から解放され、記憶を失い、再びヤーナムを訪れた。それが本編の主人公なのではないか。弟子の墓はゲールマンの介錯によって建てられ、後の主人公の墓と同じデザインであるのもそれならば説明がつくかもしれない。そして主人公の記憶の混濁は輸血によるものなどではなく、既に夢の目覚めによって記憶は失われており(※ゲールマンのセリフ「君は死に、そして夢を忘れ、朝に目覚める」)、自筆の走り書きと自分宛てのカインハーストの招待状は、この介錯の前に自身が用意したものだったのではないだろうか。それは、記憶を失った自分を再び月の魔物と邂逅させるためのものだ。

物語の最初に見るメッセージ。それは周回前と後ではまるで意味が変わってくる。


  発展途上の騎士装束と招待状、裏切り者と弟子の行動動機、狩人の夢の二つの墓、ミコラーシュと人形の主人公を知っているかのような言動、そして初めから月の魔物が主人公の目的であったこと。これが騎士装束の狩人と、ビルゲンワースの裏切り者、ゲールマンの弟子、そして本編の主人公に見た関係性の根拠だ。





◇主人公の呪い


  では肝心の本編部分の主人公、つまりプレイヤー自身である記憶を失った主人公とは何なのか。自筆の走り書きに従いゲールマンを救うことが出来れば、自身はどうなってもよかったのか。主人公はそれが全てだったのか。生物としての、種の次のステップは望んだものだったのか。

  「自筆の走り書き」は物語が始まって最初に見るメッセージであり、また本編を終えて周回したとき再び見るメッセージだ。これは周回というプレイヤーの現実と物語をリンクするメタ的演出であり、狩人の夢にある「忌々しい狩人の悪夢に囚われ、だが逃れたければ獣の病蔓延の原因を潰せ。さもなくば、夜はずっと明けない」という手記と併せることで、本編の3つのエンドはすべて狩りの失敗であるというメッセージに受け取れる。物語を終えても主人公は再び診療所で目覚め、今なお夢に囚われ続けているのだ。本当の目的は果たされていないのではないか。

  手段を問わずにゲールマンを救うだけならただこちらが殺せばよい。だが自身の救いはどこへ行ってしまったのだろう。病と悪夢の原因と思われていた月の魔物を倒しても幼年期の終わりを迎えるだけで狩人の夢は消えはしない。主人公はどのようにしても、月の呪いのためかゲールマンとは違う形で夢に囚われ、始まりの輸血からエンディングまでの長い一夜を繰り返しているのだ。

  人形はどのような時であっても、主人公との別れ際には必ず同じ言葉を口にする。「あなたの目覚めが、有意なものでありますように」。この言葉はまるで、夢に囚われ、数え切れないほどの目覚めが無為に終わり、同じ獣狩りの夜を繰り返す主人公を憐れんでいるようにも思える。

  公式サイトのあらすじには「数多くの、救われぬ病み人たちが、この怪しげな医療行為を求め、長旅の末ヤーナムを訪れる。主人公もまた、そうした病み人の1人であった…」というくだりがある。長らく謎のままだった、獣の病ではない、主人公が治療しようとしていた「本来の病」とは、夢に囚われ続け、流転を繰り返す月の呪いだったのではないだろうか。




  月の魔物の曲「Moon Presence」は女声ソロで始まり、同じメロディの女声ソロで終わる。終わりがそのまま始まりに繋がる構成は獣狩りの夜を繰り返す主人公の呪いを象徴しているように思う。イントロとアウトロのテーマが同じという構成は、タイトルムービーの「Omen」とエンドロールの「Bloodborne」にも見られ、Bloodborneを象徴するテーマが曲の冒頭にチェロで、最後は女声ソロで流れる。この二つの曲をゲームの始まりと終わりに配置することで、曲単体のループのみならずゲーム全体に及ぶフラクタル的構造も持つことになる。これもまた輪廻から脱することの難しさが表れているようだ。思い返せばダークソウルの「Nameless Song」も同じ構成を持っていた。だが「Bloodborne」だけは、よく聴くと冒頭のテーマがほんの少し違うことが分かる。純粋な円環ではなく螺旋ということだろうか。もしかしたらここに、輪廻を繰り返す主人公の希望が残されているのかもしれない。






「けれど、けれどね。悪夢は巡り、終わらないものだろう!」







◇後書き


  以前のダークソウル3の記事が1万文字を超えたため、今回はなるべくコンパクトにしようと思い新武器などには触れなかったのだが、結果はむしろさらに長くなってしまった。前後編に分けはしたものの合わせると原稿用紙にして約40枚分、文庫本なら25ページ近いだろうか。むしろ後編だけで1万文字を超えた。反省するとともにここまで読んでくれた人には感謝する思いだ。

  今回はキーアートの騎士装束からビルゲンワースの裏切り者を連想したのだが、そこからゲールマンの弟子に拡がり、果ては主人公にまで繋げてしまった。長々と書いておいてこんなことを言うのもなんだが、思い返せばダークソウル1・2のDLCのパッケージはそれぞれアルトリウスとアン・ディールだった。どちらも本編では名前しか登場しなかったキャラクターであり、Bloodborneもそれに倣えば騎士装束の狩人は主人公ではないのかもしれない(1万文字読んでもらってこれである)。

  主人公=プレイヤーを重視するゲームにおいて、主人公が過去の誰々だというのはナンセンスかもしれない。過去の主人公に会うなんていうのも使い古された話だ。ただ様々な傍証から騎士装束の狩人=ビルゲンワースの裏切り者という可能性はあると思う。それを示す直接的な証拠はDLCでも残さないかもしれないが、密かに期待しながらひと月後のDLCを待つことにする。







◇参考

Omen
Moon Presence
Bloodborne



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