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2017年6月11日

Bloodborne -ゴースの遺子-

姿も能力も人の及ばない、超常の存在である上位者ゴース。海岸にたどり着いた月の香りの狩人は、ゴースが遺した子に見えた。しかしその姿は母と異なる人型であり、なお奇妙なことに産まれながらにして老いていた。
ゴースの遺子はなぜ母に似なかったのか、なぜ老いた赤子なのか。その答えの手掛かりをドイツの医師で生物学者でもあるエルンスト・ヘッケルが提唱した「ヘッケルの反復説」に求める。






上位者とは何か。Bloodborneにおいてそれはいくつかの組織が目指しているものだ。彼らは人を遥かに超える智慧を有し、人の精神にまで感応する神のような存在。しかしビルゲンワースは上位者を手の届かない存在とはせず、むしろ人間も上位者になり得ると考えた。そうして自ら人を超えるべく各々の手法で強引に生命の神秘に手を加えた。

それはイズやローランも辿ってきた道だ。しかし一方は宇宙に触れ成功したものの、一方は獣の病に塗れ砂に埋もれた。運命は二つに分かれたが、どうやら獣と人と上位者は一つの進化の直線上にあるらしい。

人と獣の関係性から上位者への繋がりを探ることで、ゴースの遺子が人型である理由が見えてくる。ゴースは人とよく似た顔と腕を持つ。このことからもやはり上位者も元は人であることが伺える。

身を窶した男は、人はみな獣だという。だからなのか、人は病によって獣に戻ってしまう。上位者も元は人であるなら人が獣に戻るのと同様に、上位者から人に戻ることも起こり得るはずだ。現に上位者ゴースから産まれた遺子は、上位者の証とも言える羽を持つものの未発達であり、姿は概ね人に近い。

だが人が病によって獣に戻るのとは異なり、遺子は誕生する前から既に退化している。これは獣の病の類ではなく、恐らくもっと根本的でシンプルな要因があるはずだ。



ではゴースの遺子はその身に何が降りかかり人に戻ってしまったのか。生物の進化、ことさら胚の神秘から答えを探る。

ヒトは、始めからヒトではない。ヒトの胚は子宮の中で種の数億年の進化をなぞって成長する。姿そのものが成長に伴って変容していくのだ。胚→魚類→両生類→爬虫類→哺乳類、そして最後に人に行き着き誕生を迎える。ヘッケルの反復説だ。

これが上位者ならばどうだろうか。上位者が人の先にあるならばゴースが宿した子には進化にもう一段階あるはずだ。ところが遺子は人の先へ達することはなかった。彼の進化は母の死により止まってしまったのだ。

遺子が産まれながらに老いている理由も恐らくここにある。彼は母が死しても胎内で生きていた。だが人の姿で産まれることを拒み、僅かでも進化するため胎内でへその緒に縋り続けたのだ。しかしどれほど月日が過ぎてもさらなる進化は訪れず、むしろその時間は老いとして表れた。

海岸の洞窟で養殖人貝(ナメクジ女)が列を成して祈っていたのも、止まってしまった進化に奇跡が訪れるのを待っていたのではないか。だがその一縷の望みも、狩人の来訪により遮られることとなる。

遺子の産声は赤子らしからぬ嗚咽であり、それは母の死を悼むと同時に、待ち望まれた上位者の子として種の本懐を遂げられなかった思いからだろう。全ての上位者は赤子を欲している。しかし彼の姿は偉大なる母から退化してしまった。

遺子は本来ならばゴースと同様の姿で、あるいはさらなる進化を遂げて誕生するはずだったが、ビルゲンワースによりそれは阻まれ進化の途上に立たされた。遺子と漁村の住人が抱くビルゲンワースへの怨みには、村民の蹂躙やゴースの死だけでなく遺子の退化も孕んでいるのだろう。その怒りが如何ばかりかは、遺子の苛烈極まる死闘を見れば解るはずだ。


ゴースの遺子のすすり泣きは、産声としてはあまりに痛ましい。


人はみな獣、そのように上位者もまた人なのだろう。Bloodborneは種の進化がテーマだ。DARK SOULSで火とそれより生じた闇を描いたのと同じように、進化の負の側面である退化も描いた。それこそが獣の病、つまり呪いであり、Bloodborneの根底に一貫して存在するテーマだ。







終わりに

生物の進化について。
ヒトの祖先を辿ると途中でネズミが現れるが、今のネズミが数千万年後にヒトに進化するといったことは決して起こらない。進化は枝分かれしていくものであり、今のネズミが進化していく先は今のヒトとは異なる系統である。
また退化とは進化の対義語ではない。例えばモグラが視力のほとんどを失ったのは、土中において視力は不要であり生命活動におけるリソースを他に割り当てることを選択したためである。これは退化であると同時に環境への適応であり、進化そのものでもある。つまり退化とは進化の一側面でしかない。
都合によりBloodborneの獣化を「種の退化」としたが、進化生物学上は「別系統への進化」が正確な表現である。



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